「日本人にはお米が合うんだって」「あの子、パンをやめたら痩せたらしいよ」。そんな話を聞くと、朝のトーストをかじりながら、ちょっと気になりますよね。

パンも好き。ご飯も好き。どっちもやめたくない。でも、自分の体に向いている主食があるなら知りたいし、遺伝子検査で答えが出るなら、いっそ試してみたい気もする。痩せない理由が根性じゃなくて体質だったら、なんだかほっとするかも……なんて思う日もあります。

先に言ってしまうと、でんぷんに関わる遺伝子の個人差は本当にあります。ただ、それが分かっても「あなたの正解は米です」とまでは言えません。その間に何があるのか、のぞいてみましょう。

でんぷんの遺伝子、持っている数が人によって違う

話の主役は、AMY1という遺伝子です。唾液に含まれるアミラーゼという、でんぷんの分解を助ける酵素に関わっています。

おもしろいのは、この遺伝子の数(コピー数)に大きな幅があること。2026年のレビューでは、人が持つ数は2〜20コピーと整理されています。

「日本人には米」説の根っこになりそうなデータもあります。健康な日本人1,070人のゲノムを調べた研究では、AMY1の平均は8.27コピーで、でんぷんの摂取が少ない集団で報告された平均5.44より高いという結果でした。論文は、食習慣への適応を示唆する見方にも触れています。

おっ、やっぱり? と思いますよね。でも、ここで引っかかりたいのが「平均」という言葉です。

8.27は1,070人をならした数字です。集団の平均が高くても、自分がいくつなのかも、自分にお米が合うのかも、そこからは分からないんです。

それに、この研究はご飯とパンを食べ比べたものでも、痩せやすさを調べたものでもありません。分かったのは遺伝子の数の傾向までで、「日本人にはご飯が合う」とは書かれていないんですよね。

「米の遺伝子」と呼ぶのは、ちょっと違う

AMY1の相手は、お米というより、でんぷんです。でんぷんは小麦にも含まれています。だから、AMY1の話はご飯だけでなくパンにもつながります。「パンは日本人の遺伝子に合わない」という話には、そのまま結びつきません。

時代をさかのぼる、わくわくする研究もあります。2026年7月に発表された古代ゲノムの研究では、縄文早期の1人は約9コピー、弥生中期の1人は約10コピーと推定されました。論文は、稲作が列島に広がる前から、コピー数の多い変異があった可能性を示しています。

えっ、お米の前から? と言いたくなりますが、調べたのは各時代1人ずつ。縄文人全体の体質を語れるものでも、今の私たちの体質を教えてくれるものでもありません。論文は、農耕への移行がその後の変化に影響した可能性にも触れています。「米のために増えた遺伝子」と単純には言いにくそう、くらいに受け取るのがちょうどよさそうです。

分解しやすいなら、痩せやすい?

ここが、いちばん話が混ざりやすいところかもしれません。

「でんぷんをよく分解できる」と聞くと、なんだか体によさそう。でも、「でんぷんを分解する」「血糖が上がりにくい」「健康」「痩せやすい」は、それぞれ別の話です。

たとえば、レビューによると、AMY1のコピー数が多い人は、でんぷんを含む食品を食べたあとの血糖反応が高めに出る傾向があります。ところが長い目で見ると、血糖の調節を守る方向に働いているようにも見えるというのです。

じゃあ多いほうがいいの、悪いの? と聞きたくなりますよね。でも著者たちは、集団を変えた確認やしくみの解明がまだ必要だとしています。今の段階では、良い悪いのどちらかに振り分けられません。

体重についても、同じレビューは、AMY1の数だけでは体脂肪を正確に予測できそうにないと述べています。ふだん食べるでんぷんの量、ほかの遺伝的な背景、生活習慣がからみ合っているようです。つまりこの数字は、「根性が足りない」の証明にも、「体質だから仕方ない」の証明にもなりません。

もうひとつ。遺伝子の数と、その時に唾液の酵素がどれくらい活発に働いているかは同じではありません。酵素の働きの強さは、時刻やストレス、カフェインなどでも変わることがあります。遺伝子の数が分かっても、それで体の働きが全部読めるわけではないんです。

同じパンなのに、反応は人それぞれだった

じゃあ、個人差なんて気にしなくていいの? というと、それも違います。

健康な20人が、白パンと全粒小麦のサワードウパンを、2週間の休みを挟んで1週間ずつ食べた試験があります。全体の平均では、2種類のパンで臨床指標にはっきりした違いは出ませんでした。でも一人ひとりを見ると、どちらのパンで食後血糖が上がりやすいかは人によって違っていたんです。

「平均すると差がない」の裏に、人それぞれの差が隠れていることがある。これは、けっこう納得感のある話ですよね。

ただし、20人が1週間ずつ食べた短い試験です。白パンのほうが健康という話でも、全粒パンに意味がないという話でもありません。お米は比べていないので、米とパンの勝ち負けも分かりません。

しかも、この研究で「どちらのパンで血糖が上がりにくいか」の予測に使われたのは、腸内細菌のデータです。遺伝子検査の結果ではありません。個人差があることと、それを遺伝子検査で読み取れることの間には、まだ距離があります。

遺伝子に合わせて食べたら、もっと痩せる?

いちばん知りたいのは、ここかもしれません。

POINTSという試験では、過体重や肥満のある145人を、10か所の遺伝的変異から「脂質に反応しやすい型」「糖質に反応しやすい型」に分け、高脂質か高糖質の食事に無作為に割り振りました。12週間後の解析対象は122人で、84%が女性です。

結果は、判定に合う食事で平均5.3kg減、合わない食事で4.8kg減。調整後の2群の差は−0.6kg(判定に合う食事のほうが少し多く減る方向)で、この差の不確かさを示す95%信頼区間は−2.1〜0.9kgとゼロをまたいでいました。これは2群の平均の差についての幅で、一人ひとりの減り方の範囲ではありません。判定に合う食事のほうが、よりはっきり痩せるとは示されなかったわけです。

図1 POINTS試験(2023年)

判定に合う食事なら、もっと痩せる?

遺伝的な判定に合う食事と合わない食事の比較(12週間・解析122人)

POINTS試験の結果を示す棒グラフ。0kgを起点に、12週間で減った体重の平均を正の数で示している。遺伝的な判定に合う食事の60人は平均5.3kg減、合わない食事の62人は平均4.8kg減。棒に誤差線はない。図の下の説明では、調整後の2群の差は−0.6kg、95%信頼区間は−2.1〜0.9kgで0をまたいでおり、判定に合う食事のほうがより痩せるとは確認されなかったと示している。同じ効果だと証明したものでもない。145人を無作為に割り付け、122人を解析した試験で、食事は高脂質か高糖質であり、米とパンの比較ではない。

出典:Höchsmann C, et al. (2023). The Personalized Nutrition Study (POINTS): evaluation of a genetically informed weight loss approach, a Randomized Clinical Trial. Nature Communications. [1]報告された数値をもとにnohasu作図

どちらの食事でも平均では減りましたが、判定に合うほうがより痩せるとは確認されませんでした。

調整後の平均差 −0.6kg / 95%信頼区間 −2.1〜0.9kg

数字の読み方

調整後の2群の差は−0.6kg、95%信頼区間は−2.1〜0.9kgで、0をまたいでいます。これは棒の数字を引き算した値ではなく、調整して別に求めた値です。信頼区間は、平均の差の推定に伴う不確かさの幅のこと。一人ひとりの減り方の範囲ではありません。差が確認されなかっただけで、同じ効果だと証明されたわけでもないんです。

過体重や肥満のある人の12週間の試験。145人を無作為に割り付け、122人を解析。食事は高脂質か高糖質で、米とパンの比較ではありません。

ただ、参加者は主に白人と黒人の人たちで、米とパンを比べた試験でもありません。ここで使った判定で差が出なかっただけで、あらゆる遺伝子検査や個別の栄養指導を否定する結果とも言えません。

一方で、2026年のメタ分析もあります。抄録で確認した範囲では、遺伝情報に基づく食事や生活の助言と、通常の助言を比べた8件の結果を統合し、遺伝情報を使ったほうが体重が平均0.52kg少なくなりました(平均差−0.52kg、95%信頼区間−1.04〜−0.003kg)。BMIにも小さな改善がみられましたが、体脂肪率には統計的な差はありませんでした。

「ほら、効果あるじゃん」とも「やっぱり意味ないじゃん」とも言いたくなるところですが、どちらも少し言いすぎです。小さな平均差が報告されている以上、効果がないとは言い切れません。ただ0.52kgは小さく、信頼区間の端はゼロのすぐそば。著者たちも、よく設計された試験がさらに必要だとしています。

これは特定の検査の成績でも、あなたが0.52kg減るという見込みでもありません。

図2 メタ分析(2026年)

遺伝情報を使う助言、通常の助言と比べると?

メタ分析の結果を示す点と横線のグラフ。遺伝情報に基づく食事・生活の助言と通常の助言を比べた8件を統合し、体重の平均差は−0.52kg、95%信頼区間は−1.04〜−0.003kg。点は0より左にあり、横線の右端は0のすぐ手前で止まっていて、0をまたいでいない。0は2群の平均差なし、左側は遺伝情報を使う助言のほうが体重が少ないことを表す。遺伝情報を使う助言のほうが体重が少ないという小さな平均差が報告された結果で、0.52kgは総減量でも一人ひとりの予測値でもない。確認したのは抄録のみで、期間と参加人数は不明。

出典:Sharifi-Zahabi E, et al. (2026). Effect of Genetics-Based Personalized Nutrition and Lifestyle Advice vs Conventional Advice on Anthropometric Outcomes: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrition Reviews. [2]報告された数値をもとにnohasu作図(抄録のみ確認)

点は8件を統合した体重の平均差、横線は95%信頼区間
0=2群の平均差なし

遺伝情報を使う助言のほうが平均0.52kg少ない、という小さな差が報告されました。

平均差 −0.52kg(95%信頼区間 −1.04〜−0.003kg)

数字の読み方

95%信頼区間の−1.04〜−0.003kgは、平均の差の推定に伴う不確かさの幅です。区間は0をまたいでいませんが、右の端は0のすぐそば。0.52kgは2群の平均の差で、総減量ではなく、あなたが減る体重の予測でもありません。

8件を統合した結果で、確認は抄録のみ。本文は未入手で、期間や参加人数は不明です。POINTSと条件をそろえた比較ではありません。

なお、今回確認した範囲に、遺伝子の結果で米かパンかを振り分けて比べた試験はありませんでした。主食の正解を遺伝子から言い当てられる段階とは、まだ言えなさそうです。

検査が気になるなら、買う前に見たい4つのこと

それでも、自分の数字を見てみたい。その気持ち、よくわかります。自分の体の話って、やっぱりおもしろいですから。

申し込む前に、説明ページと結果の見本を開いて、次のところを見てみてください。なお、今回は特定の商品を試しておらず、個別の検査の性能は確認していません。

1. 何を測る検査か

「糖質タイプ」「太りやすさ」といった言葉の奥で、何を測っているのかを探します。AMY1のコピー数なのか、別の遺伝子の変異を組み合わせた判定なのか。ここが違えば、この記事のAMY1の話はそのまま当てはまりません。

2. AMY1なら、数字の出し方は書いてあるか

レビューは、コピー数の推定には誤差が出やすい方法もあると指摘しています。また、対象研究の半数は集団の中央値を基準に多い・少ないを分けており、1〜2コピーの差が問題になることもあるそうです。見本に実際の数が出るのか、「高い・低い」だけなのか。何を基準に分けているのかを見ておくと安心です。

3. 結果から食事の提案までに、根拠はあるか

「遺伝子と体の特徴に関連があった」研究と、「その結果に沿って食事を変えたらよくなった」試験は別物です。提案が出てくるなら、その提案自体を試した研究が示されているか。対象者は誰で、期間はどれくらいで、血糖と体重のどちらを測ったのか。比べる相手はいたのか。ここまで確かめられると、かなり見えてきます。

4. 約束が強すぎないか

「米かパンかが分かる」「遺伝子に合わせれば痩せる」と言い切っていたら、いったん手を止めてもよさそうです。今回見た研究からは、そこまでの裏づけは見つかりませんでした。

主治医から食事の指示を受けている人や、アレルギーがある人は、検査の結果よりそちらを優先してください。

「自分に合う」は、ふだんの食事のほうに手がかりがある

じゃあ何を見ればいいの? となりますよね。遺伝子の答えを待たなくても、暮らしの中で分かることはあります。たとえば数日分、こんなメモを残してみるのはどうでしょう。

  • 何をどれくらい食べたか(ご飯の量、パンの枚数、塗ったもの、おかず)
  • 次にお腹がすいたのは何時ごろか
  • 食べたあと満足できたか、何かつまみたくなったか
  • 用意と片付けは、また同じようにできそうか

朝の食パン1枚で10時半にはお腹がすくなら、パンを敵にする前に、枚数やおかずを変えてみる手があります。ご飯の夜に毎回よそいすぎるなら、問題は米かどうかより、茶碗の大きさかもしれません。量や塗るもの、組み合わせの考え方は、ダイエット中のご飯とパンの選び方でくわしく見ています。精製度をふくめた健康面の話は、お米と小麦の比較へどうぞ。「考えるのも片付けるのもしんどい夜」が引っかかるなら、宅食の形や量の見方が役に立つかもしれません。

ただ、このメモで分かるのは、あくまで暮らしの中の傾向です。眠気や空腹から、遺伝子のタイプや血糖の異常は判断できません。この記事は、自宅で血糖を測り始めることや、主食を極端に抜くことをすすめるものではありません。医師の指示で測定や食事の調整をしている人は、その指示を優先してください。体調や健診の結果で気になることがあれば、自己判断せずに医療機関で相談してください。

次に「日本人には米だよ」と言われたら

「遺伝子の数って人によって違うらしいよ。それに、でんぷんならパンにも入ってるんだよね」。そんなふうに、軽く返せたらちょっと楽しいですよね。

体質の個人差は、たしかにあります。でも、遺伝子の数字ひとつで主食は決まりません。今のところの研究を見る限り、遺伝子の話は、朝のトーストをやめる理由にも、夜のご飯をやめる理由にもならなさそうです。

参考資料

確認日:2026年11月1日。主要な論点に絞って確認したもので、網羅的な系統的レビューではありません。

  • Nagasaki M, et al. Rare variant discovery by deep whole-genome sequencing of 1,070 Japanese individuals. Nature Communications. 2015. https://www.nature.com/articles/ncomms9018 日本人の集団の解析で、米とパンの比較、健康の優劣、減量は検証していません。
  • Ishiya K, et al. High-coverage ancient genomes reveal divergent population histories and prehistoric starch-related genetic variation in Japan. PNAS. 2026. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42490385/ 縄文、弥生とも各1人の試料で、集団全体を代表しません。
  • Devarakonda SLS, et al. Effects of salivary amylase gene copy number on metabolic health. Frontiers in Nutrition. 2026. https://doi.org/10.3389/fnut.2026.1815044 ナラティブレビューで、因果関係を証明するものではありません。著者は資金援助なし、利益相反なしと申告しています。
  • Höchsmann C, et al. The Personalized Nutrition Study (POINTS): evaluation of a genetically informed weight loss approach, a Randomized Clinical Trial. Nature Communications. 2023. https://www.nature.com/articles/s41467-023-41969-1 12週間の単施設試験で、145人全員は解析されていません。日本人の米食の試験ではありません。WW International, Inc.の資金提供を受け、著者2人は同社の株主・従業員、別の著者1人には過去に有償コンサルティングの関係があります。
  • Korem T, et al. Bread Affects Clinical Parameters and Induces Gut Microbiome-Associated Personal Glycemic Responses. Cell Metabolism. 2017. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28591632/ 健康な20人の短期試験で、米の比較や遺伝子検査の評価は含みません。著者のEran SegalとEran ElinavはDayTwo社の有償科学顧問と申告しています。
  • Sharifi-Zahabi E, et al. Effect of Genetics-Based Personalized Nutrition and Lifestyle Advice vs Conventional Advice on Anthropometric Outcomes: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrition Reviews. 2026. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42782173/ 抄録のみ確認し、本文は未確認です。統合された8件の内訳や期間は確認できていません。PubMedの資金欄はUrmia University of Medical Sciencesで、本文の利益相反欄は未確認です。